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大連雑学事典

2008年3月までは、大連在住の総経理が現地レポート、その後は日本からの回顧録や中国語トピックス。 過去の記事は右下太字の「大連雑学事典ハンドブック」を参照してください。

簡体字解体新書9(日本でも採用したい部品)

色々な簡体字を紹介してきたが、見慣れてくると、ついつい自分のメモなどに使ってしまう文字がある。
あまりに簡略化しすぎたものは、如何なものかと思うが、日本でも採用したら書くのが楽になるのになぁと思うことがある。

オレが選んだ、日本でも採用したい部品を披露しよう。
と言っても目新しいモノじゃなくて、今までに、何回も説明した部品ばっかりだが。

まず、言偏だ。
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言偏は、文字の数も多いし、画数削減効果も大きいので、有効だと思う。
「言」のままだと、7画になってしまうが、中国簡体字では、2画になる。最初は変に感じるかもしれないが、見慣れると、案外簡単に受入れられるものだよ。


次は、金偏。これはあまり違和感を感じなく使えると思う。8画から5画への合理化だ。
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糸偏の字も多いから採用したいな。6画から3画への合理化。
これは、見た目では殆ど違和感がない。
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次は魚偏だが、4つの点々を1本でつないでしまうだけなので簡単だ。。
これも、見た目では殆ど違和感がない。
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食偏も8画が3画になるので、すごい合理化だ。
慣れてしまうと、本当の食偏を書けなくなる。
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車偏も同じこと。7画から4画への合理化。
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この辺までは、日本字に採用しても良いかな?って。
う~ん、車偏は、やり過ぎかもしれないな。
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簡体字解体新書8(1画減らす工夫)

中国簡体字では、1画へ減らすことにも工夫を凝らしている。

今日は、日本の漢字と殆ど同じ字形なのだが、1画少ない字を紹介しよう。

まず、簡体字を作るときに、日本字よりも1画少なく設計された文字だ。
単の字は、もともと上に四角が二つ乗っかった形をしていた、つまり「單」だ。
2つの四角を、点々に置き換えるときに、日本では3つの点々にしたが、中国では2つの点々にしただけのこと。どちらでも同じようなものなら、二つで間に合わせた方が楽だな。
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銭・浅・践の字は、「餞」の字で示した旁をどう簡略化するかで決まったのだが、横棒が2本でも3本でも大した変わりがない。識別可能なら、2本にした方が楽だ。「餞」の字は、中国では簡略化されたが、日本では旧体字のまま残されている。




次は、「縦棒」と「左払い」を一体化して、1画減らした字だ。
まず分かり易い2文字を示そう。
「着」と「差」だが、縦棒があり、これとは別に左払いがあるのだが、中国簡体字では、これを一体化して、一筆で書くことにより、1画減らしている。
これに伴って、当然のことながら筆順も変わる。
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「像」の字も同じで、よく見ると、中国簡体字は、斜めの線が一筆で書かれている。日本字は14画だが、簡体字は13画である。
勿論「象」でも同じことだ。

下の「鬼」グループ、「免」グループ、「卑」グループも同じ考え方だ。
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2011年1月27日追記
コメントで指摘されて調べてみたら、「免」と「卑」のグループは、わざわざ一画減らすために作った文字ではなく、下の欄が元もとの旧字で、上の欄は、どういう理由か分からないが俗字を日本文字に採用した結果のようだ。
大修館の新漢和辞典三訂版にこのような記載がある。
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ただし「鬼」グループは、同じような記載がないので、上の段が旧字らしい。
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これから説明する文字は、2画をくっつけて1画にしてしまった文字だ。
 | と _ の2画を、くっつけて L に変えてしまった。
叫・糾・収のグループは、「叫」の旁を、3画にするか2画で書いてしまうかの違いだ。
これは、字形が変ってしまうので、オレは違和感を感じる。
「収」の字は、せっかく、偏で1画減らしたのに、旁の方で2画多いので、日本字より1画多くなってしまった。
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次の降・舞・瞬・隣のグループも同じ考え方だ。
ヰの2画目と3画目をくっつけてしまうという荒っぽいやり方だ。
ここで「隣」の簡体字も同じように説明しようとしたが、簡体字では、全く異なる字になっているのだ。

続いて「牙」グループも同じ考え方で、「牙」の2画目と3画目をくっつけてしまったものだ。

「瓦」「印」「敢」も同じで角を曲げることによって1画減らしている。
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「巨」の字は、日中で同じ形だが、日本では5画、中国では4画になる。中国簡体字では、「区」などと同じように L の形を一筆で書いてしまうからだ。

文字を示さなかったが、簡体字では、「修」の字も同様に上部「攵」の部分を「夂」の形にして、1画減らしている。


次の「骨」グループはすごいよ。
なんてったって、1画減らすために、左右を変えてしまったんだ。
「骨」の字の上中央部は、本来は、日本字のように右を向いていたのが、これだと2画必要だが、左側に向ければ1画で書ける。
中国の簡体字設計メンバーは、この現象を発見したときに感激したことだろう。
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次は、例示としては、1文字しか探せなかったが「肺」の字だ。
見ただけでは分かり難いが、日本の「肺」の旁は5角だが、中国字の旁は4角なのだ。
日本字は、「市」と同じで、「点」と「縦棒」は別だが、中国簡体字では、縦棒が1画で上から下へ突き抜けるので、4画になる。
言っている意味が分かるかな?
同じような形だが、「柿」の字は、日中共通で、「市」を使っている。
「肺」の字が謎だ。

「変」の字は、下半分が中国簡体字では「又」になっているので、1画少ない。




最後のグループは、日本字が「さんずい」だが、中国簡体字では「にすい」になっている文字だ。中国にも「さんずい」の文字はたくさんあるのだが、どうしてこれらの文字が「にすい」になったのかは、オレの知識では分からなかった。
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簡体字解体新書7(字形を残して整形)

中国簡体字の作り方

今回は、字形の一部を消して、形を整えて作られた簡体字だ。

まずは「ヨ」三兄弟。
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「掃」「婦」「帰」の旁が「ヨ」になっている。
だけど「帚」の字そのものは「ヨ」とならずに、元の字のまま残されている。



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「場」「腸」「湯」では、「昜」の「日」が同じように省略されている。
しかも、chengbian2.jpg
の部分は、一筆で書いてしまうので、画数減少効果は、素晴らしいものだ。
「場」について言えば、日本字は12画だが、中国簡体字は6画で、半分になってしまう。見慣れると、自分のメモ書きにはついついこちらを使ってしまう。
(実際は、「日」を省略したと言うよりも簡体字解体新書5(草書体の応用-2)に書いたように、草書体の応用として簡略化されたようだ)
しかし「錫」の字は、似ているけど「昜」ではないので、簡略化されずにそのまま残っている。(金偏部分は簡略化されているが)

同じ旁「昜」でありながら、「陽」の字は、「日」を残して、下半分が消去されている。
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これは、「陽」と「陰」とのバランスで、太陽暦と太陰暦で代表されるように、太陽(つまり「日」)と「月」を選んだのだろう(推測)



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懇談の「懇」と開墾の「墾」は、同じように「豸」を省略して、形を整えている。



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「際」と「標」は「示」を残して、上部を省略した。



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「奮」と「奪」は、やはり同じように「隹」を削除して、上下をくっつけた。

字形を残す省略文字は、大体こんなところだ。

簡体字解体新書6(簡略化された編旁)

簡化字総表の第2表には、独立した文字としては用いられないが簡略化された14個の偏と旁が収録されている。
これを知るだけでも、たくさんの簡体字が解読できるようになる。
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「言偏」(ごんべん)の簡略化で、草書体を取り入れたものだ。これに慣れてくると、日本語を書くときでも、つい使ってしまう。

「食偏」だが、こいつも簡単だ。

「湯の右側」だが、「場」「腸」「楊」には応用できるが、「陽」の字は、別の簡体字が決められているので、使えない。

「糸偏」も、便利に使うことが多い。

「賢の上」は、こういうものとして覚えてもらおう。「堅」「腎」「緊」などに応用する。

「榮」は日本では「栄」になったが、中国では草冠になっている。応用字としては「営」「労」などがある。

「臨」の応用字で良く見かけるのは、「覧」くらいのものだ。

「織」の右側の応用は、「職」「識」がある。

「金偏」もオレは簡略体を日本語で便利に使っている。

「學冠」はたまたまかどうか、日本字と同じだ。

「澤」は日本字では「沢」になった。 応用字としては、「訳」「釈」「択」など。

「經」は「経」の字だ。これは、偏にも旁にも使われ、応用字としては「茎」「頚」「軽」がある。

「戀」は日本字と同じく「恋」になった。「湾」「変」「蛮」などに応用される。

「鍋の右側」は「禍」「渦」「蝸」に応用されるが「過」は別の簡体字が用意されているので、使わない。


どうやら、簡体字シリーズはあまり人気がないようだ。
知人の話によると、漢字シリーズだと読み飛ばしてしまうとか!
でも、後で検索してみると、結構役に立つんだけどなぁ。

ブツブツ、、、、、ぼやき!

簡体字解体新書5(草書体の応用-2)

草書体応用の第2回目だ。
左側の青い字が、旧字体で、真ん中の黒い字が筆で書いた草書体、右側の赤い字が、草書体の要素を取り入れた、簡体字の順だ。
最初は、似たような簡略化をされた「馬」「鳥」「島」だ。
草書体って、書く人の個性が強く出るので、このフォントでは中国の簡体字にあまり似ていないが、雰囲気は分かってもらえるだろう。
馬は10画から3画へ、7画減少。この画数減少は効果はすごい。
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鳥は11画から5画へ、6画減少。
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島は10画から7画へ、3画減少。
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ここで気をつけてもらいたいのは、「鳥」「島」の筆順だ。
繁体字(旧字体)のイメージとは異なるので、筆順のルール記事の一番下を参照して欲しい。


次は「場」と「湯」、場は12画から6画へ、6画減少。
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旁の上部にある「日」がなくなっている。「腸」も同じように簡略化されるが、「陽」だけは別だ。これについては、後日説明する。

偉は12画から6画へ、6画減少。
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「偉」の旁が、大胆に省略されている。「韓」「違」も同じ形に簡略化されるが、「衛」は、全く違う字になる。

中国で4番目に多い苗字の「劉」さんの字は、こんな風になる。
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さぁ、これからが、草書体の真髄だ。
これは、崩し方を知らなければ、全く読めないと思う。

この字はどうだ!
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中国に来たばかりの頃は「キマ」としか読めなかったが、こうして草書体と並べてみると、なるほどって感じがする。

次もすごいよ。
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どうしたらこんな形になるんだろうか? でもとにかく「楽」なんだ。

中国では、太陽暦に対して、太陰暦(旧暦)のことを「農暦」という。
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草書体の方が少し崩れているけど、きちんと形を整えればこうなるのだろう。

最後は「書」だが、これは意外と馴染みやすいかも。
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だけど、この書体は、あんまり似ていないね。

2回に渡って、草書体の応用を書いたが、勿論このほかにもたくさんある。色々探してみると面白いかも?

簡体字解体新書4(草書体の応用-1)

草書体は、子供頃は「続け字」なんて呼んでいたが、毛筆で書く流れるような字体である。

草書体を応用した簡体字はたくさんあるので、全部を紹介することは出来ないが、いくつか眺めていれば、他の字についても想像できるだろう。

左側の青い字が、旧字体で、真ん中の黒い字が筆で書いた草書体、右側の赤い字が、草書体の要素を取り入れた、簡体字の順だ。

まず分かりやすい、基本的なところから糸偏(いとへん)を見てみよう。
6画から3画へ、3画減少。
kumisoutai.jpg
糸偏を崩すとこんな風になる。殆ど違和感なく受入れられるだろう。

続いて、言偏(ごんべん)の簡略化も草書体の形をそのままイメージしたものだ。
7画から2画へ、5画減少。
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続いて、食偏(しょくへん)だ。 
8画から3画へ、5画減少。
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これは「飯」の字だが、「飲」「餅」「館」など他の字も同様だ。

門構えも分かりやすい。これは、日本でも略字として使っている人がよくいる。
8画から3画へ、5画減少。
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門構えがこう簡略化されるなら、「間」だって同じように簡略化される。
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「長」の字は、草書体と全く同じで、こんな風に簡略化される。
8画から4画へ、4画減少。
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割と有名なので知っている人も多いことだろう。
筆順は、最初に斜めの払いを書いて、次が横棒、続いて縦棒を通して、最後に右払いで仕上げる。

「東」はこんな具合だ。
8画から5画へ、3画減少。
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「東」の点々が、横棒に変ると「車」になる。
7画から4画へ、3画減少。
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「風」は、草書体を参考にしたのかどうか分からないが、雰囲気は似ている。
9画から4画へ、5画減少。
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中身が「メ」なら「風」だが、「ヌ」なら「鳳」なので、間違えないように。
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こんな感じで、簡略化した文字は、「魚」「貝」「見」などがあるが、一度にたくさん並べると、面倒になってみてくれないので、今日はここまでにして、次回は、もっと大胆な草書体応用の上級偏を紹介する。

簡体字解体新書3(偏旁を残す)

前回に引き続いて、文字の一部を残した簡略化だ。

偏だけを残した文字をいくつか紹介しよう。
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見ての通り「殺」「親」「離」だが、容易に想像できる。
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「競」の字は、偏を残したのか、旁を残したのか良く分からない。
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逆に旁だけを残した文字もある。
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形成文字においては、旁には音を作る役割がある。「録」は簡略化されたが、「緑」と「禄」はもとの字のまま使われている。
「復」と「複」はこの簡体字に統一されたが「腹」は元のまま残っている。
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字形の一部を残したように見えるが、もともとあった簡単な字に置き換えた文字もある。
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「昇」は御馴染みだから分かると思うが、「陞」の字は見たことがないだろう。これはリットルを表す字で、日本は「一升瓶」の升の元の字だ。日本では「昇」と「升」を別の字としているが、中国では「升」一文字に統一してしまった。
「云」はもともとあった「云」と言う字(「云々」と言う言葉に使われる、「話す」と言う意味)に、「雲」を便乗させた置き換え字なのだ。
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更に、繁体字を少し簡略化してから、更に字形の一部を残して省略した文字もある。左が繁体字、右が最終的な簡体字である。
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「産」の繁体字は、なべぶたの下がバッテンになっている。
「関」の繁体字は見たこともないが、簡体字は、日本人には分かりやすい。
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顕微鏡の「顕」の文字も一度簡略化の段階を経て最終的に偏だけを残した。
「殻」の字も良く見ると、繁体字は横棒が一本多い。この字は、日本の「売」と良く似ているが、一部がつながっているところが違う。

簡体字解体新書2(字形を残す)

中国の簡体字を紹介するのに、どんな順序で説明したら興味を持ってもらえるかと、色々考えてみた。
通常なら、言偏とか車偏の簡略化から入るのだろうが、今回の記事では、字形の一部を残した文字について解説する。
この技法は、日本人にとって分かりやすいと思うのだが、中には、まさかこんなところから!という文字があるので、実にクイズ的で面白いと思う。

まず、入門偏としてこの3文字。
見た瞬間に、元の字のイメージが浮かんでくることだろう。
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ご覧の通り、左から「電」「開」「飛」だ。
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次は、もう少し大胆に簡略化した3文字。yeguangqi.jpg
左から「業」「広」「気」だが、見てすぐに分かるだろう。
「業」は言われないと分からないかもしれないが、このように説明を受ければ、一目瞭然、次からは間違うことはない。
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更に大胆にカットした3文字は、分かるかな?
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左から「術」「郷」「習」だが、ここまで大胆に省略されると、ちょっと分からないだろう。特に「術」は、「木」に点と言う認識をしたら、なかなか術にはつながらない。
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字形を残す簡体字で、これは素晴らしいという3文字を紹介しよう。これはすごいよ。答えを見なきゃ絶対に分からないと思う。
クイズとしての完成度は、ここに極まれりってな感じだなぁ。答えと言うか由来を知ったときには感動したものだ。
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「滅」は消火器をさす中国語「滅火器」の文字によって、日常的に見ていたのだが「滅」の簡体字だと気が付くまで3年もかかってしまった。なんとなく「消火器」の簡体字だと思い込んでいたのだ。「滅」の字の中にこんな形が隠れていたなんて気が付かなかった。
「豊」の簡体字は、もう芸術と言うしかないな。日本人にとっては、「豊」の繁体字に馴染みがないから、発想そのものが無理だ。トヨタの自動車に表示されているので、案外早い時期に「豊」の字であることは認識するのだが、由来はなかなか分からない。
「麗」は、字形を残すだけでなく、上の棒をつなげる変形をしているが、やはり思いもつかなかった。



偉そうに書いているが、オレは言語学者でもないし、専門に勉強したわけでもない。簡体字を眺めているうちに、自分なりに整理してみようとまとめてみたものだから、一部誤解があるかもしれない。
誤りの指摘があれば、修正します。

簡体字解体新書1(日本語は簡体字だった)

前回の「簡体字解体新書0」で、書いたように、漢字簡略化の歴史を調べてみると、日本では中国よりも5年ほど早く簡略化した漢字を使い始めた。

「簡体字」というと、
「中国では、変に簡略化した字を使っているから読めやしないよ」
と言う日本人がいるだろうが、台湾や香港の人に言わせれば、
「日本の漢字って、変な略字や俗字が多くて読めやしないよ」
と言うことになるのだ。

日本では、「簡体字」という単語を使っていないが、漢字簡略化の考え方は、日本も中国も同じなんだ。日本では、「旧字体」、「新字体」と呼んでいるが、「簡体字」と言ってもおかしくない。
そうは言っても、「簡体字」は中国文字の名前になっているのだから、日本語を「簡体字」と呼ぶのは間違いなのだが。


漢字簡略化の手法は、大別して二つある。
1、漢字の数を減らす。
2、画数を減らす。

1、漢字の数を減らす。
漢字の数を減らすためには、めんどくさい字は使わないようにしようと言うことだ。
日本では、当用漢字を決めて、それ以外は「ひらがな」にしようということになるのだが、中国には「ひらがな」がないのだからそうは行かない。
そこで、同じ音や同じ意味の漢字をまとめてしまって、簡単な字に統一する。
例えば 「麺」の字を廃止して、「面」で代替する。
同様に、「後」の字は、同じ発音の「后」で代用する。 
「骨粗」→「骨粗
あるいは、「發」と「髪」をまとめて同じ字にしてしまった。
「幹」と「乾」は廃止して「」に統一した。
だから「新幹線」は「新線」だし、「会社幹部」は「会社部」、「乾燥機」は「燥機」となる。
ただし「乾」の字はqian2と読む場合のみ、残されている。

2、画数を減らす。
画数を減らす手法としては
1、草書体の要素を取り入れて、画数を減らす。(書、長など)
2、字形の一部を残して、代表的な部品で字を表現する。(広とか飛など)
3、字形の一部を残して更に変形して形を整える。(奪、墾など)
4、偏や旁を置き換える。
5、画数の少ない古字や俗字に置き換える。(涙⇒泪)

こうして、同じような手法で簡略化された字を眺めていると、参考にしたのか、たまたま偶然なのか分からないが、日中で同じ形になった字が結構たくさんあるのだ。
ある研究<日本・中国・台湾・香港の4地域を対照比較した基礎漢字字形一覧表>によれば、日本の常用漢字1945字の中から、日本の国字「込、働、峠、畑、塀、匁、枠」7字と中国で馴染みの薄い「扱・机」2字を除外して、残り1936字を調べたところ、日中で字形が一致したのは、1165字(60%)だった。なんと、日本字の6割は中国漢字と同じだったのだ。
更に「徳」(中国字は「心」の上に横棒が1本入る)とか、「圧」(中国字は右側に点がつく)、「兎」と「兔」のように僅かな違いの字を含めると、読める字は更に増える。
しかし、中国語を学ぶときには、これが思わぬ落とし穴になって間違えたまま覚えてしまうのだが。
読めるけどなんかちょっと違うぞ!←参考にしてね。

日本の常用漢字の60%が読めても、その他に、中国には日本で使っていない漢字がたくさんあるから、すらすら読めるわけではない。

さて、以下は、日中で共通の簡略化をした字の一部だが、旧字体(正字)→新字体(簡略字)の関係を知っている人がどれほどいるだろうか?

部品の一部を残す。
號→号、聲→声、醫→医、
「號」の本来の意味は、虎が内に秘めた気が口からあふれ出てくることから、悲しみのために泣き叫ぶということ。略字の「号」にしてしまうと、全然雰囲気が違ってくる。熟語としては「号泣」や「号哭」が残っている。
餘→余、獨→独、
「餘」は食偏があることから、食べ物の残り物を示す字だったのだが、食偏を取ってしまうとなんだか分からない。

部品を簡単にする。
戀→恋、灣→湾、亂→乱、辭→辞、

學→学、覺→覚、擔→担、膽→胆、

淺→浅、殘→残、錢→銭
(厳密には金偏が違うし、中国字は横棒が1本少ない)、

斷→断、繼→継、裝→装、壯→壮、

區→区、歐→欧、


何となく元の字から連想できる。
麥→麦、參→参、蠶→蚕、寶→宝、

黨→党、國→国、會→会、爐→炉、

竊→窃、濕→湿、屬→属、數→数、

譽→誉、禮→礼、鐵→鉄
(厳密には金偏が違う)

寫→写(中国簡体字では横棒が突き出ない)

元の字から想像できない形。
體→体、當→当、盡→尽、壽→寿、

萬→万、臺→台、


こうしてみると、日中共通の簡略字って結構あるんだなぁ。
戦後生まれの世代では、上述の「旧字体」(正字)が読めないどころか、存在すら知らない人も多いことだろう。って、オレもその一人なのだが。

次回は、まるでクイズのような、字体の一部を取り出して、元の字を連想させる中国簡体字の面白いパターンを紹介する。

簡体字解体新書0(漢字簡略化の歴史)

漢字の歴史は、それこそ中国三千年だか、四千年だかと同じ長さの長い歴史があるのだろうが、その大分部の時間は、手書きか木版印刷(手彫り版画)だったのだから、比較的自由に、略字や色々な異体字が使われてきた。例えば、「峰」の異体字として「峯」があるように。渡辺の「辺」なんか「邊」「邉」のほか、微妙な違いで無数に異体字があるらしい。自分が気に入ったら、勝手に点をつけても略しても良かったのだ。
ところが、19世紀後半、金属製の活字印刷が盛んになってから、殆ど意味に差がない異体字のためにわざわざ別の活字を作るのは無駄だということになり、異体字の整理が急速に進められた。
と言うことは、3、4千年の漢字の歴史の中で、1画多いだの少ないだの、そこは離しちゃいけないだのって、めんどくさいことを言うようになったのは、最近の100年足らずのことなのだ。

現代の漢字の元になっていると言われるのが、18世紀前半に編纂された「康煕字典」である。ここに掲載された約4万字が、概ね、日本では「正字」あるいは「旧字体」、中国、台湾では「繁体字」と呼ばれる字体であり、第二次世界大戦まで漢字圏の国で共通に用いられてきた。
(「繁体字」と言う言葉は、「簡体字」の対応として戦後に中国で作られた言葉なので、台湾文字を「繁体字」と呼ぶのは、正確ではない)

1945年:
第二次世界大戦終結後、日本と中国では、膨大な数の漢字と、画数の多い煩雑な漢字が、国民の学習を妨げているという認識の下に、学習負担軽減と識字率向上を目指して、漢字の削減と簡略化が進められた。
この動きは、台湾、香港では起こらなかったのはなぜだろうか?

1946年:日本
「当用漢字表」が1月16日に内閣告示された。
GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)担当官の発案で、日本語は全てローマ字にしようと言う提案があったそうだ。「当用漢字」「現代かなづかい」制定の経緯
これは、なんとか避けたのだが、使用する漢字を簡単にして、数を減らそうという動きが強まった。その結果、将来はローマ字になるかもしれないが、「一般社会で使用する漢字の範囲を示すもの」として、いる漢字だけ残そうと言うことで1850字の「当用漢字」が選定された。
この時点では、漢字を選び出す作業が主で、簡略化はあまり行なわれず、旧字体のままの文字が多かった。

1948年:日本
「当用漢字音訓表」告示。
「当用漢字表」には読みは示されておらず、ここで音訓を示した。

1949年:日本
「当用漢字字体表」告示。
「当用漢字表」は簡易字体の採用が一部にとどまっていたが、これを整理して、字体が明確に示し直された。正字(康煕字典体で示されていた文字)の多くが、「当用漢字字体表」では、簡易字体に置き換えられた。
ここで、現在日本で使われている漢字の基本形が定められたことになり、中国よりも一足早く、日本では漢字の簡略化が進められた。
日本人は、とても素直なので、「漢字はこれだけ覚えればよい」と内閣が発表したのだからと、他の漢字は使わなくなった。使ってはいけないような気運さえあったのだろう。
1949年:中国
中華人民共和国を建国。この直後から、毛沢東、周恩来が文字の簡略化こそ急務と提唱。

1952年:中国
文字改革委員会を組織し、簡体字表の整理作業を始めた。

1955年:中国
日本よりも大分遅れて、中国文字改革委員会が「漢字簡化方案草案」を発表。
先行していた日本と同じ字形が結構あるのだが、簡略化の手法など限られているので、たまたま同じになったのかもしれないし、多少は参考にしたのかもしれない。

1956年:中国
国務院が「漢字簡化法案」を公布。
簡体字と簡化字を、教育、公文書、新聞や雑誌で使用させた。

1958年:日本
「教育漢字」選定。
「小学校の各学年で教えるべきもの」として、「小学校学習指導要領」の付録「学年別漢字配当表」に盛り込まれた漢字。

1964年:中国
「簡化字総表」発表。
これが、現在中国で使われている簡体字の基本である。
3つの表から構成されており
第1表:350字、偏旁に応用できない文字。「寶→宝」「燈→灯」など。
第2表:132字、偏や旁に応用できる文字(「國→国」は「掴」の旁として使う)と、
    文字ではない偏旁が14個ある(言偏、糸偏などの簡略化)。
第3表:1753字、第2表の偏や旁を応用した文字。
一般に「簡体字」と呼んでいるが、厳密に言うと、字全体を簡略化した文字を「簡体字」と言い、偏や旁など一部が簡略化されたものを含めて「簡化字」と言う。

1965年:中国
「印刷通用漢字字形表」を公布して、印刷物に使用すべき字体を定めた。

1977年:中国
「第2次漢字簡化方案」を中国文字改革委員会が12月20日に発表。
これは1975年5月草案提出、1977年末から人民日報が試用開始したが、あまりにも簡略化しすぎたために、読みにくい、見苦しいと、国民の賛同を得られず、8年間の試行の後、1986年6月24日国務院が廃止を発表した。

1981年:日本
「常用漢字表」10月1日に内閣告示。
「一般の社会生活における、現代国語表記上の漢字使用の目安」として、当用漢字より95字多い1945字が選ばれた。

1986年:中国
「簡化字総表1986」を国家語言文字工作委員会が公布。これが現在の最新版で、2244文字を収録。

1988年:中国
「現代漢語常用字表」を公布。この3500字は主に教育で使用されている。

1989年:中国
「印刷通用漢字字形表」に代わる「現代漢語通用字表」を公布。
この総数7000字が印刷のほか、コンピュータなど情報処理分野でも利用されている。

1989年:日本
「教育漢字」追加・改訂により、1006字とになった。

日本と中国で標準語として広く使われている、簡略化された漢字だが、こうしてみると、僅か5~60年の歴史しかないのだ。このまま、今後数百年にわたって使われ続けるのだろうか?
一つの可能性として、国際交流がさらに進み、日中文化統合計画などをぶち上げて、日中の漢字共通化が図られるかもしれない。
この50年、100年ではありえないだろうが、数百年の後には、世界の言語を統一しようと言うことで、漢字の使用を禁止されるかもしれない。