地球上の動物が1対1で戦ったら、地上最強の動物は何かと言う考察を書いた本で、結構科学的で面白かった。この本によれば、トラとライオンは同格でチャンピオンになっていた。自然界でトラとライオンが戦う場面はまずない。生息域が違うからだ。
肉食獣ではないが、身体の大きさと力でアフリカゾウは、もしトラやライオンに襲われても、十分に戦える能力があるとも書いていたような気がする。 しかし実際に、ライオンがゾウを襲うことはない。
番外編だが、水中動物ではシャチが圧倒的な王者だそうだ。
強い動物と言えば、クマも思いつくのだが、トラとクマの戦いは実際に行なわれているらしい。驚いた話だが、シベリアトラの獲物の1割くらいはヒグマだそうだ。これにはちょっとびっくりした。もっとも成獣同士が戦うことは少なく、小熊や小型のメス熊が襲われるようだ。
ハルビンの北に、「東北虎林園」という施設がある。
こんなかわいらしいモニュメントが迎えてくれる。

東北虎とは、シベリアトラ(アムールトラ、朝鮮虎)の中国名で、絶滅の危機に瀕している。ロシアのシベリア地域に2~3百頭が生息しているらしいが、中国領には20数頭しかいないと見られている。この極寒地域にはトラの餌となる動物が少ないので、オスのトラの行動圏は、1000平方キロにも及ぶと言われている。
トラが減少しているのは、美しい毛皮を狙った密猟と餌となる獲物が減っているからだ。 シベリアトラは何を食べているかと言うと、一番の獲物はイノシシなのだが、イノシシの数が減っていることと、人間による開発により、トラの生息域が狭くなっていることが、生息数減少の大きな理由らしい。
この「東北虎林園」は、東北虎の絶滅を防ぐために、広い土地に放し飼い状態でトラを繁殖している世界最大の施設だ。園内には600頭以上のトラがいて、毎年繁殖しているために、2010年には1000頭を超えると見られている。中国の野生のトラが20頭足らずに対して、なんと多いことか。
ここでは、バスに乗ってサファリパークのように園内を回ることが出来る。

これまでの人生で動いているトラを近くで見る機会はなかったが、今回初めて近距離で見ることが出来た。データによれば、成獣は体長3メートルで体重300キロだ。
いやぁ~! カッコいい!! トラはカッコいい!!!
腕なんかオレの太腿くらい太くて、眼つきが鋭く迫力がある。
「水滸伝」では、武松が山中で出くわしたトラを素手で退治したことになっているが、ありえないだろう。本物のトラを間近で見たらそんな話はとても信じられない。武松はトラを退治してヒーローになったが、今なら保護動物殺害の犯罪者になってしまうところだ。

注文した餌を、トラに与え、獲物に襲い掛かるところをバスの中から見ることが出来る。 生きた鶏が40元とか、牛肉が一切れ10元とか、羊が1頭500元だったか、牛が1200元くらいだった。
オレが乗ったバスでは、鶏を2羽注文した客がいて、係員がトラの前に放り出した。係員が乗ったシープ(実際はジープではないが4駆の自動車)が近づいてくると、トラが周囲に集まってくる。鶏を放り出すと、一斉にトラが飛び掛り、最初に噛み付いたトラが鶏をとる。それを横取りしようとしての争いは起こらない。上の写真では左側のトラが、鶏を咥えている。
(動物保護の観点からこの行為が残酷だと非難を浴びているようだ。下のコメント参照)

これほどに繁殖したトラだが、自然界に戻して野生化させようとしてもとても難しいそうだ。そもそも、十分な餌を与えられ続けているので、狩猟闘争本能が働かないらしい。もともと寒い地域で餌が少ないのだから、狩猟の技がなければ、生き抜くことが出来ない。結局動物園で保護されるしか生きるすべがないのかもしれない。
なんか哀れな王者だ。
そうしてしまったのは人間なんだが。
(ハルビン旅行記 終わり)